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Memorial days 〜榊志貴&榊架那汰の場合〜



 5月31日、それはとても特別で、誰も知らない秘密の日。
 彼ら姉弟だけが共有する内緒の日。
 父さんや母さんだって知らない、二人だけの大切な日。


「―――――とは言えまぁね、希恵子が知らないと本気で思ってた訳じゃないわよ、あたしも」

 ため息交じりに榊志貴(さかき・しき)が呟いたのは、爆竹を鳴らしたんじゃないかと思うほどけたたましいクラッカーの音に、鼓膜が破れていないことを確認してからだった。キーンッ、と耳鳴りがまだ収まらないが、それはもう無視してしまう事にする。
 ちら、と隣に座ってたはずの双子の片割れを見てみると、やっぱりぎょっとした様子で目を見開いたまま硬直している。こっちは本当に何が起こってるかまだ判ってないに違いない。
 これが自分の双子かと思うとなんだか情けなくなって、志貴は思わず弟の頭を力任せにベシィっ!と叩き倒した。一応は愛情表現だ。
 ゴンッ!とまるで冗談のように見事に顔面からテーブルにクリーンヒットした榊架那汰(さかき・かなた)は「何すんのさ、志貴!」とさすがに声を荒げたが、志貴はきれいさっぱり無視をして正面に向き直った。それぞれ面白そうな表情でこちらを見ている柚木希恵子(ゆずき・きえこ)高島譲(たかしま・ゆずる)北村洋平(きたむら・ようへい)、佐野秋邑(さの・あきむら)を順番に、半眼で見据える。
 もっとも、事の首謀者は聞かなくても判る。だれよりも面白そうにニヤニヤと笑っている希恵子に違いない―――――というより希恵子以外の一体誰が、今日と言う日の事を知れると言うのだ。
 額をさすりながらぶつぶつと文句を言っていた架那汰が、やっぱり同じ結論に達したらしく恨みがましい目で希恵子を見つめた。

「柚木さん。秘密にしてるなんて趣味が悪いよ」
「なに言ってんのよ、榊クン。こういうのは秘密にしなきゃ面白くないでしょ?」
「そーよ、架那汰。希恵子のは趣味が悪いんじゃなくて性格が悪いって言うの」
「志貴に言われたくないわね」

 希恵子と志貴は仲が良いのか悪いのか判らない絶妙のコンビネーションで、再び架那汰を言葉の暴力で打ちのめす事に成功した。この春、中学入学をきっかけに知り合ったこの二人は、何故だか性格的に正反対なのに最後の部分でひどく馬が合う。
 そうしてその割を一番食らってるのが架那汰なわけだが、と自身の不幸になんとなく気づきながら架那汰が視線を巡らせると、同情に満ちた男連中の視線が暖かい。…………もちろん、架那汰を助ける気は一ミリもない様だが。
 三つの小学校から集まってくる生徒たちで構成される市立崎之森中学校の中で、早くも二大女傑としての地位を確立しつつある二人の少女は、悪びれのない笑顔でにんまりと笑いあった。

「で、今度はどこまで調べた訳?」
「あら、その発言自体があたしの情報網への挑戦?」
「べっつにー?〈データベース〉柚木希恵子サマに挑戦なんてー?」
「ふぅん、何だったら毎年あんたたちが交換してるプレゼントの中身まで暴露してあげても良いのよ?」
「おーい、柚木、榊。おまえらが仲が良いのは判ったからそこらへんにしとけ」

 洋平が呆れ果てた様子でトントン、と机を叩いて注目を集めた。グルン、と振り返った二人を、頬杖を突いたまま眺めていた洋平はさして驚いた様子もなく半眼で見返す。
 この春、小学校を卒業するまでは高ノ宮市外の都心部に住んでいたらしい洋平は、高ノ宮育ちの他の仲間たちよりちょっとだけテンポが違っている。遅れているとか早すぎると言う訳じゃなくて、ただ何かがちょっとだけ違うのだ。
 それを「協調性がない」と怒ったのは志貴だっただろうか、と感心しながら秋邑はクラスメイトの顔を眺めた。別に同じクラスだからと言って特別洋平と仲が良い訳ではないが、志貴があの性格で引っ張りまわしているうちになんとなく一緒に行動するようになって、もう一ヶ月が経とうとしている。
 実はその都会風な態度が同年代の男子の密かな憧れになっているとは知らず、洋平はギシ、と背もたれに体を投げ出した。

「あのさ、俺らはお前らの漫才聞きに来てる訳じゃないだろ?」
「漫才ってどういう事よ」

 希恵子はあからさまに気分を害したようだったが、特に洋平の発言に逆らう気はないようだった。それが多分癖なのだろう、薄い眼鏡をクイと軽く持ち上げ、改めて楽しそうな笑顔になる。
 譲が父親に呼ばれてカウンターの方に行ったのを横目で見ながら、えっへん、と声を上げた。

「じゃあ改めて、明日で13歳の誕生日を迎える榊姉弟の誕生日・イヴ・パーティーって事で」
「なんなのよそのイヴ・パーティーっての」
「他にどう言えっての?」

 志貴からのクレームに希恵子はひょいと肩をすくめた。秋邑がそのあとを引き受けて苦笑混じりに言う。
 秋邑は希恵子と幼稚園から同じクラスと言う恐怖の腐れ縁のせいか、仲間たちの中で一番希恵子の行動パターンを掴んでいるようだった。もっとも本人はそれを心から不幸だと考えているようだったが。

「架那汰の誕生日パーティーってのも可笑しいだろうが。お前ら双子なんだし」
「そうだよねぇ。確かに他に言いようはないと思うよ、志貴」
「架那汰は黙ってて」
「ついでにお前も黙っとけ、榊。話がすすまねーだろ」
「るっさいなぁ、北村!あんたこそ黙ってなさいよ!」
「あーもーうちの店で騒ぐなっ!!」

 カウンターから全員分の飲み物の乗ったトレイを運んできた譲がガアァッ!と吠えた。彼らが集まっているこの【NocturnE】は、なにを隠そう譲の父親が経営する喫茶店なのである。それを「友達の誕生会で」と使わせてもらっている身なのだ。
 だがチラ、と譲を見た希恵子が視線を戻しながら穏やかに呟く。

「貸し切り代金は払ったけど?」
「…………俺にはあんな金額をぽんと払えるお前が一番謎だよ」
「ありがとう、高島。何かあったら格安で動いてあげるから」
「……………」

 もはや譲は何も言わないまま、黙々とトレイの上からアイスティーを各自の前の配り出した。その向こう、カウンターの中で譲の父らしい男が苦虫をかみつぶしたような表情になっていたのは、架那汰の目の錯覚だろうか?
 志貴は目の前に置かれたアイスティーのグラスを引っつかみ、意味もなくグルグルとストローをかき回しながら不機嫌に言い放つ。

「と・に・か・く!今日は架那汰のホントの誕生日なんだからね!」
「それにもしかしたら志貴の誕生日でもあったかも、でしょ?」
「そっ!母さんたちが何を思ってあたしの誕生日に合わせたのか知らないけどね」

 まぁそれは奇妙な事だ、と希恵子も思っていたので、ひょいと肩をすくめるにとどまった。
 〈データベース〉との異名を持ち、実際そんじょそこらの情報屋顔負けの情報網を構築している希恵子だが、もちろん彼女の情報網にだって限界と言うものは存在する。さすがに、一体なぜ榊夫妻が生まれた子供の誕生日を一人目の生まれた5月30日ではなく二人目の生まれた6月1日に合わせたのかも、なぜ先に生まれた架那汰が兄ではなく後から生まれた志貴が姉なのかも、詳しい事情までは判らない。
 ちなみに断っておけば、別にこの双子が複雑怪奇な生まれ方をした訳ではない。単に架那汰が5月30日の23時24分に生まれ、次に一時間遅れで志貴が6月1日の0時19分に生まれたと言うだけの事だ。こういう場合、双子の誕生日はどちらかに統一して役所に届け出るのが普通であり、榊夫妻は志貴が生まれた6月1日の方を双子の誕生日として選んだ、ただそれだけの話だ。
 架那汰が困った表情になれば良いのか喜んだ表情になれば良いのか迷っているようなそぶりで、志貴、と小さく片割れの名前を呼んだ。個性強すぎる姉の側で育ったせいか、概して架那汰はかなり気が弱い。しかもなぜか街を歩けば因縁を付けられる、という徹底ぶりである。
 志貴がそんな片割れに、ちら、と視線を走らせた。

「………まぁ良いわ。そんな事はあたしと架那汰が判ってりゃ良いんだもの。で、まさかクラッカー鳴らしてアイスティー飲んで終わり、なんてしょぼいパーティー、企画してくれた訳じゃないでしょ?」
「あんたね、一体誰にそんな発言してる訳?」
「…………希恵子、言っとくが企画したのはお前でも動いたのは全部オレなんだが」
「だってそれが秋邑の役目でしょ?」

 にっこりと駄目押しする希恵子に秋邑は沈黙で不満を表現したようだったが、その程度のささやかな抵抗でこの女傑候補にそもそも対抗できるはずもない。本人もそれはよく判っているので、小さなため息だけを漏らすにとどまった。
 それすらも気付かない風で(実際に気付かなかったのか無視しただけなのかは定かではない)希恵子は爽やかに譲と洋平の方を振り返った。

「じゃあ高島、料理の方お願いね。北村は高島を手伝ってやって」
「はいはい」

 指名を受けた二人もため息交じりで腰を上げた。希恵子に逆らっても無駄なのはよく判っている。同じ理屈で、志貴の機嫌を損ねても厄介だと言う事も彼らはよく理解していた。
 だが別に、それが原因で唯々諾々と従っているわけではない。そういう空気もなんとなく心地良いから、彼らはその空気に従っているのだ。
 それを見て、志貴と架那汰はどちらからともなく視線を合わせ、クスッ、と笑う。譲の父親お手製らしいパーティー用のごちそうが運ばれてきて、さらにきっちり十三本のロウソクが立ったケーキがドドンとお目見えし、それに目を見張った子供たちはキャアキャアと手を叩いて大笑いする。


 5月31日、それはとっても特別な日。架那汰が本当に生まれた、けれどもどうしてだかなかった事にされてしまった架那汰の本当の誕生日。
 今までそれを二人きりでこっそりお祝いしてきた姉弟だったけれど、こうして盛大にみんなで祝うのも良いものだと、二人はケーキを口一杯に頬張りながら考えていたのだった。


.....fin.






最初は双子だけのつもりだったんですが、

気付けばフルメンバーを書く羽目になっていて誰がビックリって自分がビックリ、と言う。

お陰で力一杯話しにまとまりがなかった気がしますが、

ある意味一番まともな話が書けたかもしれん、とも思って見たり。

Theme小説に出てきたメンバーだけキャラ解説リンクが張られています。

というかそうか、佐野秋邑だけ出してなかったか……………(気付いてなかった)


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