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世界の夢を見る朝(あした)


第四話 信じられない迷子 2


「………は?」

 一瞬、何を言われたのか判らず、雄維は首をかしげた。それからしばらく考えて、にっこりと満面に笑みを浮かべた瑪瑙の顔を見て、それがどこまでも雅と瓜二つだと思って。
  ようやく、気付く。拒絶されたと、思う。
  そう思ったら腹が立った。考えるよりも先に、腹の底から熱いものが湧き上がってきて、雄維はその衝動の命じるままに、不機嫌を全面に押し出して雅そのものでありながら雅ではない、瑪瑙と言う名の少女を睨み付ける。

「なんでだよ………ッ!?」
「だって、あなたは『現実世界の男の子』だもの」

 雄維の激昂に驚いた様子も、ましてや怯えた様子もなく、打てば響くように返された瑪瑙の言葉は、けれどもその明瞭な響きとは異なりまったく意味が判らない。
  頭の中が疑問符でいっぱいになる。そんな雄維に気付き、瑪瑙は笑顔を引っ込めると、少し困ったような表情になった。

「えっと、もしかして、ここが『夢の国』だって判ってない?」
「そりゃ判ってるけど」

 いや、厳密に言えば判っているとは言いがたいが、少なくともこの状況が現実的でないことぐらいはわかる。

「そうじゃなくて。なんで、オレがあんたを呼んじゃいけないんだ?」
「あ、なんだ、そこか。………そこねぇ。う〜ん………」

 雄維の言葉に、一瞬瑪瑙はぱっと顔を輝かせたが、すぐに首をかしげて唸った。無意識にだろう、クルリ、と身体の前で右手をひらめかせる。と、とたんに右手の中に、ポン、とどこからともなく花の蕾が現れた。
  ギョッ、と驚いて目を見張った雄維には気付かず、そうねぇ、と瑪瑙は蕾をクルクル回しながら考え込むように宙を見上げた。

「つまりね、何でも良いんだけど、何かを呼ぶってことは、その存在を特定することでしょ?」
「……………?」
「あ、ほら、知らない?相手の名前を知ったら、その相手を支配できる、とか」
「………それなら聞いたことはある、けど」

 厳密に言えば、読まされたことがある、と言うか。部活動と称して瑞貴に読まされた、瑞貴の書いた物語の中に、そんな設定の話があった気がする。もうどんな話だったのかまでは覚えていないけれど。
  もちろんそんな事情を知らない瑪瑙は、ポン、と嬉しそうに両手を合わせて「でしょ」と笑った。

「それがなんでかって言うとね、相手の名前を知るとか呼ぶってことは、その相手を名前で縛ることなの。名前っていうか、呼び方って言うかね。ヒトに限らず、ソレが『何』なのかを特定するのが名前でしょ?だから逆に、相手の名前を呼ぶことで相手の在り方を限定することも出来るの。それが相手を支配する、ってコト。判る?」

 さっぱりきっぱり判らない。
  曖昧に笑った雄維にそれを悟ったのだろう、瑪瑙がまた困った顔になった。本当に、よく表情の変わる少女だ。そんなところも雅に似ている。
  雅もまた、ころころと気分と表情を変える少女だった。お天気屋さんと言って良い。どうかすれば自分勝手と嫌われるところだが、それが愛嬌になってしまうところが、雅の雅たる所以だった。
  ん〜、と瑪瑙が唸りながら、右手の中の花の蕾を唇に押し当てるような仕草をした。途端、ポンッ!と軽く弾ける音がして、蕾がピンクの花弁を綻ばせる。
  ギョッ、とまた驚いて目を見張る。何かの手品だろうか。

「あ、例えばこんなのはどうかな?」

 何か良い説明が思い浮かんだらしい。瑪瑙がぱっと顔を輝かせた。

「例えば、この花。あたし達が花って呼ぶから花だけど、そうじゃなきゃただのモノでしょ?」
「あ〜……まぁ………」
「相手を限定する、って言うのはそういう事。ソレが何なのか、どういうものなのかを決めることが、相手を呼ぶって行為なの。もちろん『現実』ではどうか知らないけどね。それで、『夢の国』ではね、そうやって相手を呼ぶってコトは、相手に対して力関係が上になる、ってコトでね。それって、同時に力関係が上になったモノが、下になった相手に自分の力を分け与えることなの。って、ほとんど朱鷺の受け売りなんだけど」
「え〜っと………」

 まぁ、なんとなく、言わんとすることは判った。ような気がする。あくまで気のせいである可能性が高いが。ようは言ったもん勝ちということだろう。
  だがそれと、雄維が瑪瑙を呼んではいけない理由と、いったいどんな関係があると言うのだ?
  そう尋ねると、良くぞ聞いてくれました、とばかりに瑪瑙が得意げな笑みを浮かべた。再び胸を張り、クルリとピンクの花を回す。

「さっきも言ったけど、相手を呼ぶってコトは、相手に自分の力を分け与えるってコト。そうすると、あなたがあたしを呼べば、あなたはあたしに存在の力を分け与えることになるわね?」
「存在の力?」
「うん。そのものがそのものとして世界に存在するための力のことよ」

 瑪瑙は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


to be continued.....


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