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世界の夢を見る朝(あした)


第四話 信じられない迷子 4


 また訳のわからない理屈が出てきた、と雄維はうんざりしてため息を吐いた。そもそも、自分で言うのもなんだが雄維はあまり頭がいいわけじゃない。ましてこんな理屈とか論理とかは、瑞貴なら得意なのだろうけれど、雄維は大嫌いだ。どっちかと言えば直感タイプである。
  クルリ、と瑪瑙が手の中の蕾を回した。

「『夢の国』は『現実』の物語から生まれた一つの世界だけど、『夢の国』を作ってる『現実』はたくさんある、ってことよ。『現実』との境界を越えることは出来るけど、越えた先が元の『現実』かは判んないの」
「つまりパラレルワールド、ってことか?」

 その言葉なら、前に瑞貴に読まされた物語の中に出てきた。確か、ちょっとずつ違う所のある世界が無数に存在する、って意味だったと思う。
  さぁ、と瑪瑙は肩をすくめた。

「『現実』ではどういう言い方をするのか、朱鷺なら知ってるかもしれないけどあたしは知らないわ。とにかくそういう事。それでも良いんなら、あたしにだって境界を開くくらいは出来るわ。あたしは夢見が丘の魔女だもの。ただ、あたしは朱鷺と違って制約があるから、今すぐってわけには行かないわ。早くても次の新月までは待って頂戴」
「制約?」
「そう。あたしは新月の闇に落ちた夢見が丘でしか、『現実』との境界を開くことはできない。朱鷺ならいつでもどこでもオールマイティなんだけど。でもいくら朱鷺だって、繋ぐ『現実』を選ぶことはできなかったと思うわ」

 瑪瑙の言葉に、雄維は先ほどから気になっていた疑問を口にした。

「なぁ。さっきから出てくる、その、朱鷺ってのは何なんだ?」

 ごく当然のようにさっきからその言葉が頻出しているが、多分ヒトの名前だろうと言うことは予想がつくのだが、それに対する説明は一切なされていなかったように思のだが。
  え?と驚いたように瑪瑙が目を見張った。雄維の顔に浮かんだ疑問の表情に、逆に驚き戸惑ったような表情になる。
  だがやがて、雄維が伊達でも酔狂でもなく真剣に聞いていることを悟ると、コクリと首をかしげて頬に手を当て、まぁびっくり、といった表情になった。

「そっか、朱鷺を知らないのね?そうよね、朱鷺が『現実』から来た子供は『夢の国』のことはぜんぜん判らない、って言ってたもの。朱鷺のことだってわかるわけがないのよね」

 なんだか、さりげなく馬鹿にされたような気がしないでもないのだが。
  雄維は憮然と瑪瑙の次の言葉を待った。機嫌が悪くなった雄維に、瑪瑙が不思議そうに首をかしげたが、とりあえず受け流すことにしたらしい。

「朱鷺はあたしの親友で、境界川を守る番人よ。境界川って言うのは『夢の国』と『現実』を隔てる川のこと。そこなら常にあらゆる『現実』と繋がっているから、朱鷺はいつでも境界を開くことが出来るの」

 つまりは『どこでもドア』とか『旅の扉』みたいなものなのだろう。瑪瑙の言葉に雄維はそう結論付けた。
  そうすれば当然、更なる疑問もわいてくる。

「じゃあその朱鷺ってヤツに頼めば良いんじゃないのか?」

 雄維は遠慮なくその疑問を口にした。そんなにオールマイティに『現実』と『夢の国』をつなぐことが出来るのなら、後どのくらいかかるのか知らないがわざわざ新月まで待たなくとも、今すぐに『現実』に戻ることが出来るのではないか。
  抱いて当然の疑問に、そうね、と瑪瑙は唇をへの字に曲げた。

「頼めればね。頼むだけの余裕が朱鷺にあればね。って言うかせめて連絡でも取れればね」

 瑪瑙の口調に、不吉な予感がして雄維は思わず身構えた。


to be continued.....


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