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世界の夢を見る朝(あした)


第七話 対称的な番人たち 3


 うわぁ、と雄維はもう一度胸中で呟いた。今度は、何が「うわぁ」なのかよく判った。優そっくりの朱鷺という存在だ。『現実』で雅が優を追いかけては文句を言っているように、『夢の国』では瑪瑙が朱鷺を追いかけては文句を言っている。その、あまりにも似すぎた構図。
  その証拠に瑪瑙はたちまち雄維の存在など忘れたようにニコニコと笑顔になり、いそいそと朱鷺の前の椅子に腰をかけて身を乗り出した。

「もう朱鷺ってば、忙しいのはいつものことだけど、音信不通だなんてどういうこと?仮にも親友に対して冷たいじゃないの」
「そうは言ってもな。瑪瑙、お前もイレイズの被害が増えているのは知ってるだろう?なのにお前も楓も動けないのでは、私が動くしかないだろう」
「そりゃあそうだけど、だからってどこに居るかまで判らなくするなんて」
「仕方ないだろう。そうでもしないとアレまで私の居所をかぎつけて、イレイズを逃がしてしまうのだからな」
「ああ、バーユね………彼、どうしてイレイズなのに朱鷺が好きなのかしら。うっかりしたら自分が朱鷺に消されちゃうのにね」
「知るか。大方自虐趣味でもあるんだろうよ。瑪瑙、いくらお前でもアレのことをこれ以上言うようなら怒るぞ」
「はいはい。まったく朱鷺ってば、相変わらずなんだから」
(―――――ええと?)

 なんだか話が妙な方向に進んでいるような。
  雄維はパチパチと目を瞬いて、二人の親友同士の会話を理解しようと勤めた。何が、何だって?イレイズ?彼?

「まさか、あんた女なのか!?」

 その結論に辿り着いた瞬間、雄維は驚きのあまり震える指で朱鷺を指しながら思い切り叫んだ。へ?と目を丸くした瑪瑙と、何?と目を細く眇めた朱鷺が、同時に雄維を見る。
  先に動いたのはやはり、しなやかな体躯をした朱鷺のほうだった。スラリ、と先ほどのように雄維ののど元に大鎌の刃を突きつける。

「もう一度言ってみろ、小僧」

 低く押し殺した声でささやかれ、ひっ、と再び雄維は悲鳴を上げた。本気だ。本気で殺る気だ。

「ちょっと、大人気ないわよ、朱鷺―――――気持ちはわかるけど。ユーイ、朱鷺のことを男だと思ってたの?見れば判るじゃない」

 クスクス笑って親友を止めながら瑪瑙が言う。その言葉にチッ!と小さく舌打ちをして朱鷺が刃を引いた。慌ててバッと朱鷺から距離をとり、情けないながら瑪瑙の背中に隠れるようにすがりつく。
  それから改めて朱鷺を眺めてみた。確かに優にそっくりだから、と言う先入観で青年だと思ってしまった節は否めない。だがよく鍛えられた筋肉といい、しなやかな身のこなしといい、「よくよく見れば」女性だろうか?と思える程度だ。たぶん雄維じゃなくても男と間違える、と思う。
  瑪瑙の言葉に大いに疑問の表情になった雄維に、朱鷺がもう一度舌打ちした。どうやら彼女自身もそれはよく判っているらしい。忌々しげに顔を歪める。
  カタン、と瑪瑙が立ち上がった。一目見て、彼女がウキウキとしているのが判る。こんな表情も雅そっくりだ。何かを思いついて、それがとんでもなく良い考えだ、と自画自賛しているとき。
  ポン、と両手を可愛く胸の前で合わせて、瑪瑙はにっこり微笑んだ。

「朱鷺、朱鷺!朱鷺も一緒に朝ごはん食べてくでしょ?ちょうど用意してたところなの。ユーイ、卵は取ってきてくれたわよね?じゃあこれでパパッともう一品作っちゃうから、二人とも座って待ってて。ああ待ってユーイ、その前に飲み物とか運んでくれる?」

 予想通り、瑪瑙は楽しそうにぺらぺらと一人でしゃべると、雄維から卵のかごをひったくって台所に軽やかに駆けていった。すぐにガチャガチャと食器や鍋の触れ合う音が聞こえてくる。
  雄維と朱鷺は、そろって互いに視線を交わした。朱鷺はどうだか知らないが、雄維に他意はなかった。ただなんとなく、こんな時でも変わらず明るい瑪瑙を、誰かに訴えてみたかった。
  朱鷺の視線を受けて雄維は軽く肩をすくめた。ずいぶん勇ましい姿と言葉遣いだが、最初ほど怖いという印象はない。
  また瑪瑙が怒り出さないうちに雄維は速やかに瑪瑙の後を追って台所に行き、並べられたサラダのボウルと深皿を三枚両手に持った。ボウルにはトングをさしておくことも忘れない。フォークはすでにテーブルの上にあったから持って行かなくても大丈夫だ。
  居間に戻ってテーブルの上にそれらをおき、それぞれの椅子の前に並べていると、朱鷺が、どうかすれば不機嫌にも聞こえる声色で「おい」と雄維に声をかけてきた。

「何?」

 敬語を使うべきか一瞬悩み、まあ良いか、とやめる。『現実』でなら当然敬語を使うべきなのだが、ここは『夢の国』だし、彼女は先輩の桐原優ではない。
  手を止めて答えた雄維を、朱鷺は轟然と見上げた。本物の桐原優はどうだか知らないが、彼女はこう言った、堂々としたというか、偉そうな態度がずいぶん板についているようだ。きっと普段からこんな風なのだろう。

「ユーイ、お前、いつまで『夢の国』にいる気だ?」

 


to be continued.....


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