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世界の夢を見る朝(あした)


第十二話 平凡なる日常 2


 後姿も可愛い雅がカバンを手にして、ふふふん、と鼻歌を歌いながら踊るようなステップで部室を出て行く。多分もう、優と喧嘩したことは完全に忘れ去っているだろう。

(あああああ…………)

 雄維は内心のた打ち回った。雅は可愛い。その雅が優の話をしていると、十割り増しで可愛くなる。だからって楽しんで聞いているかというと、その間はまっすぐ雅の視線が雄維に向けられているので楽しくないわけじゃないが、そうは言っても恋する青少年の心理は複雑怪奇なのであって。

「相変わらずバカね」

 その様子を横目で観察していた瑞貴が、大学ノートに視線を戻しながら感想を述べた。非常に端的かつ判りやすい感想だ。と言うか自分でも結構そう思っているので、さすがにぐっと傷つくものはあったけれど、何も言い返せない。
  はぁ、とため息なのかどうなのか自分でも良く判らない声を漏らしてすごすごと雅が開けっ放しにしていったドアを閉め、すごすごと肩を落として部室の中のいつもの定位置に向かう。雅がいないのなら今日の部活動は終わったも同然だが、なんとなくこの部屋で時間を潰すことが習性になっている。

「そう言ってやるなよ、高野〜。ゆっちーもバカなりに必死なんだからさ〜」

 いつも通り窓際のソファの上でマイ枕をセットして〈部活動〉にいそしみながら、翠がケラケラ笑い声を上げた。ちっとも庇われている気がしない。まあ本人もそんなつもりは一ミリもないだろう。
  そうかしら、と真剣な顔で首をかしげる瑞貴と、そうだって、と笑いながら頷く翠をジトッと横目で見ながら部屋の隅に置かれたパイプ椅子に向かった。そこが雄維の定位置だ。別に後輩だから虐げられているわけではなく、たんに居心地のよさを追求した結果である。
  雄維の気配を背中で追っていた瑞貴が、大学ノートから視線を上げることも、ましてや弛みなく動き続ける右手を止める様子もまったくないまま、感心したように呟いた。

「確かにみゃあは『広告塔』のつもりで部長にしたけど、君、そんなに雅が好き?」

 この先輩は、他の誰をもきちんと名前で呼ぶけれども、ただ雄維に対してだけは『君』と呼びかける。その発音はどっちかと言うとカタカナの『キミ』に近いけれども、多分瑞貴のことだから、きちんと漢字の発音で呼んでいるのだろう。
  はぁ、と雄維は肩をすくめた。そんなことを大真面目に聞かれるのは、多分雄維だけではなくこの年頃の青少年なら誰しも苦手とすることだろう。ましてやそれに真面目に答えるなんて、恥ずかしいにもほどがある。

 


to be continued.....


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