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世界の夢を見る朝(あした)


第十四話 紡がれる夢 1


 強い視線を感じた。
  それは、ただ見られている、というにはあまりにも強い何かを伴ったものだった。それでありながら、言葉にするのは難しいが、強いて言えば人間らしさを伴わない、カメラ越しに見られているような感覚だった。
  雄維がその気配を感じ取れたのは奇跡に近かったかもしれない。多分あちこち跳ね回るぴょこぴょこ豆を追いかけるのに疲れ果てて、頭の中が真っ白になっていたのが良かったのだろう。
  雄維が『夢の国』で再び過ごす羽目に陥ってから、一週間がたっていた。瑪瑙は宣言どおり、雄維に遠慮なく仕事を言いつけまくったのだが、前回それに文句を言ってあきれられた愚を忘れていない雄維は、おとなしくそれに従っている。すなわち、毎日市場で売るぴょこぴょこ豆を五個ずつかごに詰める、と言う仕事だ。
  まったくもってあいつらは性質が悪い。その名の通り、といってしまえばそれまでのお話なのだが、それにしたって豆のくせに人間様の手をかいくぐって翻弄するように跳ね回るとは、いくら『夢の国』だからって限度がある。
  いい加減、雄維も〈特別行政自治区>の名を関する非常識都市高ノ宮の人間なのだから非常識の数々には慣れているつもりだ。ただし、慣れるということは受け入れるということとは違うのだ、ということを雄維はこの国に来てから骨の髄まで思い知っていた。
  別に豆が跳ね回ろうがなんだろうが、それは一向に構わない。ただそれによる弊害が我が身に降りかかってくるなら別である。
  そんな訳でしみじみと疲れ果てて、ぐったりとそこらの草むらに寝転がって、いつも通りの青空を見上げてぼんやりと思考を開放しきっていた。瑪瑙は雄維が仕事をサボろうとすると雅そっくりの顔を精一杯怖くしかめて怒るが、ちゃんと仕事をこなしていれば何も言わない。
  多分だから、その奇妙に力強い視線に気付けたのだ、と思う。それくらいその視線は力強く、気配がなかった。

「……………?」

 『夢の国』にやってくるのも二度目なら、雄維もジロジロ他人様に見られるのには慣れている。とにかく『夢の国』の住人にとっては、雄維という『現実』からやってきた存在はひどく視線をひきつけるらしいのだ。
  なのに気になった、強い視線。それはその強さのせいじゃなくて、そこに伴う奇妙さのせいだったと思う。
  ぐるり、と目の玉だけを動かして―――――首を巡らせるような気力はすでに残っていなかった―――――視線の主を確認しようとした。ぐったりと地面に大の字になってねっころがったまま、ぎょろりとぎりぎり一杯まで右に視線を動かし、それでは目的の存在まで視線が足りなかったので、ほんのちょっとだけ首も右に傾ける。
  そこでようやく、小さな頭の天辺が見えた。どうやら雄維や瑪瑙と同じ、ヒトの姿をした住人のようだ。
  『夢の国』の住人は、その名前にふさわしくと言うべきか、大きく分けて二種類の種族がいる。そういうわけ方をするのは間違っているのかもしれないけれど、とにかく外見上二種類の住人がいる。
  そのうち、ヒトと呼ばれるのは大雑把に言ってしまえば二足歩行をする住人だ。これには例えば、雄維が一番最初に『夢の国』に迷い込むきっかけとなった(と思われる)仔狐のベガなどが含まれる。少なくとも雄維の知る限り、二足歩行をしている、と言うことが絶対条件のようだ。
  もう片方はそれ以外のすべての住人だ。こちらはハルシュに住んでいるものが少ないようで、雄維はまだ見たことがない。けれども瑪瑙の話によれば、エゼッタ婆さんの家のそばにはロージー・ローズという、『夢の国』全土に根を伸ばすバラ科の女性がいるらしい。見た目も生態もまったくバラなのだが、彼女は知性を持ち、ヒトと言葉を交わすのだと言う。
  雄維はぐったりとした身体に鞭を打ち、ゴロリと転がって腹ばいになった。夢見が丘には時々、瑪瑙の魔法を頼ってやってくる住人がいる。そういう人間ならば、今は小屋の中で花籠を編んでいるはずの瑪瑙を呼びに行かなければならなかった。
  ぐい、と両肘を付いて半身を持ち上げ、来訪者の姿を確かめようとして。
  そのまま、絶句した。

(………瑞貴、先輩?)

 


to be continued.....


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