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さんぷるぺーじ。


※こんなカンジでお届けしています。




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   Cycling gamE

             創刊号     発行者:蓮華・水無月
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篭にあそぶ鳥の泣く唄 第一羽




 かつてこの国に、伝説、と呼ばれた少女が居る。
 伝説に生まれ、伝説に生き、死してなお伝説と呼ばれた、尊き炎乙女が居る。
 民の誰もが愛し、民の誰もを愛した、心優しき神の娘が居る。


 けれどもこれは伝説の始まりよりも少し前、まだ世界が闇に覆われていた頃の物語。



               ◇



 炎節が始まると、途端に陽球の色は突き刺すような白に変わる。
 そんなことを言ったのは馴染みの色町の女だったが、なるほどそれは間違いない、
と空を見上げたサガは恨めし気なため息とともに額に噴き出した汗を拭った。
 腰に下げた汗拭き布はとっくに湿って役に立たないと言っても良かったが、ないよ
りはマシ、と言う言葉もある。ましてこう暑くては、多少なりとも汗を拭わなければ
うっとぉしくてたまらない。
 文字どおりつき刺さるような陽射しに手を翳しながら、サガはけだるい足を叱る様
にして《風神殿》の大通りをだらだらと上っていった。


 フォレシア帝国の首都、ヴァガス。
 世界にただ一つしかない帝国の、中心たる皇帝の住まい、直々に政を布く、
文化と学問と交流の中心地。
 10ハヤ四方(1ハヤ=1000ガリ、1ガリは1両足歩)を囲む城壁は見上げるほど
高く、町に並ぶ建物もやはり高い。ヴァガスの町の四方は図ったように正確に東西南
北を指しており、それぞれは風・地・炎・水の各神殿が悪しき物が入り込まぬ様、護
りの陣を布いている。北西には《死神殿》、対する南東には《生神殿》。その全てが
交わる中心点に在るは、広大な帝国を治る帝家の象徴たる帝城。
 城門は南西と北東に各一つづつあり、先の6神殿も含む八方からは俗にその行く先
に在る神殿・城門の名を冠した大通りが皇城をつらぬかんと真っ直ぐ伸び、城前大広
場にぶつかって消える。城に繋がる道はこの8本のみであり、つまりは不穏の在る時
もその8個所さえ押さえれば城は安泰。それは《古王国》を追われし祖王の大胆にし
て堅実な護りの策。
 フォレシアは、戦の絶えぬ国だった。
 表面上は平穏な時が過ぎ行く町の中で、いつも何処かで甲冑の音を聞く。魔術師の
戦いの火花が散る。あるいは嫉妬に駆られた奥方が浮気相手に毒を盛って高笑い。
 欲しいものは力ずくで奪え。
 望みはどんな手を使っても叶えよ。
 力こそが正義、力なきものはただそれだけで悪。力なきものは虐げられ、力有るもの
は当然のようにこの世の春を謳歌する。
 それがフォレシアの正義、ヴァガスの今ある姿。その筆頭に有るのは6神殿であり、
皇帝は形骸化して久しい。
 後の世に《暗黒時代》と呼ばれる、神殿が実権を握り国政を思うが侭に動かしていた、
今はその最盛期であった。



 サガはだらだらとした調子を崩さず《風神殿》の大通りを上り切り、城前大広場に立
ち並ぶ屋台のうち冷水の看板を上げた露店に近寄っていった。この辺りで売っている店
は、品揃えこそ貧弱ではあるがその品質と出所には信頼が置けるものばかりだ。
 逆に城壁の際や出たすぐ側に並ぶ露店は、品揃えは豊富だがべらぼうに値段は高いし、
出所も怪しい品が多い。いわゆる闇市と言うやつで、地方からやって来るものにはたい
そう繁盛しているようだが、ヴァガスに住まうものは城市―――――大広場に店を出す、
城の認可が下りている市の事だ―――――と闇市を上手く使い分けていた。
 並んだ樽の中から蜂蜜水を選び、1シトロ銅貨を店の親父に投げて渡した。難なく銅
貨を受け取った親父は穴が空くほどしげしげと裏に表に銅貨を見つめ、ようやく本物で
あると確信するにいたるとそそくさと銭函に銅貨をほうり込む。チャリチャリと釣りの
ビル鉄貨を用意する親父の傍らで、心得た小僧が柄杓にすくった蜂蜜水を慣れた手つき
で慎重に木椀に注いだ。
 冷やり、と冷気がサガの茹りきった腕にまとわりつく。
 してみるとこの露店は吸温魔法で冷水を製っているのだろう。
 冷水を製る方法は色々有るが、最もメジャーなのは氷結魔法だ。本来であれば空気中
の水に絶対零度の魔法を叩き込んで一気に対象を永久氷解に閉じ込める魔法だが、それ
には相応の訓練が必要になる。市井のものがこの魔法を使っても、せいぜいが凍結寸前
まで液体の温度を下げるのみに留まる、逆にそれを商売に利用したやり方だ。
 逆に吸温魔法とは、対象が貯えている熱を吸い出す魔法である。これもやはり相応の
訓練次第では対象をうちから凍らせる事や、逆に吸い出した熱を放出する際に別の対象
を一気に焼く事が出来る使い勝手の多い魔法だが、一般には吸い出した熱を放出する術
を知らず体内に溜めこんでしまうことから諸刃の魔法と呼ばれ、使用者は少なかった。
 この露店の小僧は、と見るとサガに木椀を渡した手は熱く火照っていたが、すぐに台
の下から火種石を取り出して熱を閉じ込めていた。ぽう、と紅く光る火種石は、中々に
上等と見える。
 火種石は重宝されるものだから、この露店のやり方は賢い商売と言えた。それも貰お
うか、と声をかけると親父の視線がちらりと動いて、手の平の鉄貨をいくつか掴んで銭
函に戻す。
 火瓶に封じられた火種石は、燃え盛る時を待って興奮しているようにちろちろと赤い
舌を覗かせていた。

「良い石だ」

 サガは言葉みじかにそう告げると、先刻から乾いてたまらなかった喉を潤す為、木椀
に口をつけて一気に煽った。最も一般的なチェリスターの花の蜜を溶いた蜂蜜水は、甘
酸っぱい印象を残したまま瞬く間に喉の奥に流れ込む。
 夏には砂糖水の次に人気のある飲み物だ。冬には蜂蜜湯に姿を変え、人々の凍えた心
を解きほぐす、そんな飲み物。
 冷たさが喉から全身を駆け巡って、一時の涼をサガにもたらした。それもまた魔法の
一端。

「やるな、小僧」

 歳に似合わぬ魔法の見事さに、ぐしゃ、と小僧の髪を混ぜて誉めてやると、何処かぴ
りぴりしていた小僧の表情が照れくさそうに一瞬緩んだ。良い、子供だ。
 露店の親父に礼を言って椀を返した。息子が誉められたからか蜂蜜水と火種石の両方
を買い上げていったからか、先ほどのうさんくさげな態度はひっそりとなりを潜めて、
けれどもぶっきらぼうにはいよ、と椀を受け取る親父の手は堅く節くれだっている。
 若い頃は兵士だったのだろう。これはそういう手だ。
 見るともなくそれを見やって、何も言わずに露店を離れた。向かう先は帝城、訪れる
者は少なく招かれる者はなお少ない、フォレシア帝国中心にして誰もに忘れ去られし巨
大なオブジェ。
 その中に棲む姫君こそが、サガの仕える人だった。



to be continued.....




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  発行者:蓮華・水無月
      http://cistella.biz/
  発行元:まぐまぐ(http://www.mag2.com/)

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